大学職員を志望するきっかけとなったのは自分の大学時代の経験でした。新しい出会いや学びに期待して大学に入学しましたが、特に大学1、2回生の頃は座学の授業ばかりで退屈に感じ、自分のやりたいことや目標も見つからず悩んでいました。しかし、3回生の終わりに研究室に配属されたことを機に、魅力的な先輩後輩と一緒に研究を進めることがとても楽しく、没頭することができました。自分は運よくそのような環境に身を置くことができましたが、振り返ると、自分と同じように何となく大学に来て、単位を取るためだけに授業に出て、学生生活を有意義に過ごせていない人がたくさんいるんじゃないかと思い、そこに問題意識を持つようになりました。
大学という自由で開かれた場は、機会や環境に巡りあうことができれば、多くの人にとって自分の人生の可能性を大きく広げられる場だと思います。その後押しができる大学作りがしたいと思い大学職員を志望しました。
近年ウクライナ戦争やパンデミック、急速なデジタル化や科学技術の進展による産業構造、ライフスタイルの変容など、社会にはこれまでにない大きな変化が生じています。これに対応し、新たな価値を生み出す人材の育成や知・イノベーションの創出に向けた研究を担う大学は、大きな役割を担っていると思います。一方、世界における日本の大学の研究力の相対的な低下が大きな問題として取り上げられるようになり、大学の責任や価値が問われていると感じています。
私が所属する研究企画課では、大学の研究者が十分に研究に没頭し、最大限のパフォーマンスを発揮できるような研究環境の整備や、研究を推進するために必要な資金の支援プログラムの設計・運用などを行っています。新たな価値を創造する大学として、どのような制度や支援の体制、研究環境を整えれば、世界最先端の知が集まり、新しい発見や課題解決が生まれる組織になるのか。自大学の強みや他大学の情報も調査しつつ、戦略を練って制度設計していくことが現在の仕事の醍醐味です。
一番印象に残っているのは、初任職場のBKCリサーチオフィスで、製薬企業とのコンソーシアム型共同研究を立ち上げたことです。大手製薬メーカー10数社と他大学、国の研究所、立命館大学が1つの研究テーマの元に集まって共同研究プロジェクトを進めるものでした。
通常、製薬メーカーは医薬品開発情報の守秘のため、同じ業界の競合他社同士が手を組むのが難しいと言われています。一方で、薬剤の評価方法の確立など一部のテーマでは連携した方が良い場合があります。1社単独で開発するよりも、多くの会社で共通の方法で評価できる方が信頼性が上がるなどのメリットが得られるからです。そこでこのプロジェクトでは、立命館大学が中立な立場でプロジェクトのとりまとめや技術・知見提供を行い、複数社で共有できる基盤的な評価技術を開発することを目的に構想されました。最終的に国の補助金に頼らず、民間企業それぞれが研究費を持ち寄り、大規模プロジェクトを実施することができました。
しかし、実施に至るまでには相当な苦労もありました。各社が提供する研究データの守秘はどのように担保するのか、研究の結果得られた知的財産等の成果は各社でどのように権利を分配するのか等、各社にそれぞれの思惑がある中での調整は困難の連続でした。しかし、根気強く各社の要望を聞き、折り合いのつけどころを探っていった結果、なんとか落としどころを見つけることができました。入職して間もないところで右も左もわからない状況でしたが、多くの人にサポートして頂きながら、最後には「中原さんがいなければこのプロジェクトは立ち上げられなかった」と言ってただけた時には、何とも言えない達成感を得たことを覚えています。画期的な研究を進める主体はもちろん研究者の方々ですが、研究が円滑に進む仕組みを作り、支えることも研究を推進する上ではとても大きな役割だと感じています。
就職活動は、自分を見つめ直す良い機会でもあると思います。迷うことも多いと思いますが、考えつくして自分で決めた決断であれば、きっと納得のいく選択にできると思います。
取材日 2022年11月
※プロフィールは当時のものです。
物事に建設的な問題意識を持ち、解決に向けて一緒に議論・行動が起こせる人。