PROJECT
挑戦する職員たち

EPISODE
地域課題の解決に貢献する研究・技術の社会実装
PROJECT MEMBER PROFILE

大学の知見・技術を社会に還元する


立命館大学では2008年10月、文部科学省 『産学官連携戦略展開事業(戦略展開プログラム)』の採択を受け、立命館大学産学官連携戦略本部を設置した。知的財産マネジメント・産学官連携推進・起業・事業化支援・研究(研究者)支援などの諸機能を一体化して推進することを目的をしており、リサーチオフィスがその実行機能の役目を担う。活動のキーワードは 「地域」「事業化」。大学を重要な地域資源と位置づけ、大学の研究シーズを育成・事業化し、地場産業や地域経済への貢献を目指す。ここではそのモデルケースとも言える一例を紹介する。

暮らしの安全を守るイノベーションへの挑戦。

1970年代の高度経済成長期に急速に普及した日本の下水管。耐用年数は約50年と言われており、近年、耐用年数を過ぎた下水管が急増している。下水管が劣化し下水が漏れ出すと、地盤沈下や人体に有害なガス(硫化水素)が発生するなど大事故につながる恐れがある。そこで国土交通省は平成27年より、5年に一度下水管を点検するよう自治体に通達したが、直径100mm以下の小口径下水管は点検できる手段がなく、現在は入口と出口だけを見て劣化具合を判断している。この状況に危機感を持った草津市の上下水道施設課と、本学でヘビ型ロボットを開発している加古川准教授の技術がマッチングしたことで、社会実装プロジェクトがスタート。プロジェクト立ち上げから推進に尽力する本学職員に話を聞いた。


技術と課題、そして協力者の輪をつなげるのが自身の役割

現在私は、滋賀県草津市内を実証実験場とした下水管点検ロボットの社会実装プロジェクトを担当しています。私の役割は、社会の課題と研究者の技術シーズのマッチングを行い、必要なメンバーを集めてプロジェクトを組成、マネジメントを行う事です。本プロジェクトは草津市上下水道施設課と加古川先生のほか、下水管の清掃業者、草津市内のロボット開発会社、配管ロボットの販売会社、補助金(2022年度滋賀県近未来技術等社会実装推進事業)を助成いただいた滋賀県など、たくさんのプロジェクトメンバーの協力のもとで進んでいます。このような協力者は募集して簡単に集まったわけではなく、研究者の技術展示会やイベントでの発表の際に興味を持って下さった方、飛び込みで電話をかけて快く応じてくれた方など、一つひとつのアプローチが実を結んだものです。初めは数人だったメンバーがスケールアップして、できることが増えていく様子はまるでロールプレイングゲームのようで、今後の展開に胸が高鳴ります。




このプロジェクトが成功すれば、小口径下水管の点検基準見直しの契機となり、日本全国でより精度の高い点検が実施されると考えています。これにより、汚水漏れや地盤沈下といった重大な事故の発生確率を低くし、安心・安全に暮らせる社会づくりに貢献できるでしょう。また、この社会課題を抱えているのは日本だけではありません。立命館大学研究者の技術シーズが草津市から滋賀県、日本、世界へと広がり実装され、下水管点検のグローバルスタンダートになることを期待しています。


協力者にビジネスとしてのメリットを提供したい

このプロジェクトは始まったばかりで、実は協力いただいている方の中で利益が発生しているケースはほとんどありません。「この社会課題をなんとか解決したい」「加古川先生のこの技術の社会実装に協力したい」といった利害や損得を抜きにして集まったメンバーだからこそ、腹を割って話ができるし、ロボットが1メートル前に進んだだけで本気で喜べます。しかしながら、今後もこのプロジェクトを長期的に続けていくためには、企業目線で「プロジェクトに参画する理由」を生み出すことが必要だと考えています。そのために、本プロジェクトの趣旨に適した国の補助金等を獲得し、プロジェクトに関わるメンバー全員が全力で取り組める環境を整備していくことが今後の私のミッションだと感じています。


取材日 2023年3月
※プロフィールは2023年4月時点のものです。

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